新スプリアス問題が話題ですが、ユーザーの目線から、私なりに整理してみました。お約束ですが、「以下は一般論です。個別の手続においてそのとおりになることを保証するものではありません。」
【論点】
新スプリアス基準に対応していない無線機が1台でもあると、平成29(2017)年12月1日以降に発行される無線局免許状(再免許=更新の場合を含む)の備考欄に、以下の注記がされます(CQ誌2017年4月号78頁)。
備考 無線設備規則の一部を改正する省令(平成17年総務省令第119号)による改正後の無線設備規則第7条の基準(新スプリアス基準)に合致することの確認がとれていない無線設備の使用は、平成34年11月30日までに限る。
この注記がされないためには(されてしまった場合の対応としては)どうしたらいいのか、というのがここでの問題です。なお、以下の分析は、200W以下の送信機に限ります。
(2017-07-23追記)
上記注記の記載が始まったようです。
http://www.hamlife.jp/2017/07/21/jard-spurioushosyo-yobikake/
(追記ここまで)
【整理】
1 既設置の送信機の分類作業
貴局に属する第1送信機から順に、それぞれの送信機が、以下のいずれにあたるかを、申請・届出書類の控え等から思い出します。なお、以下で「設置」とは、新規開局時の「設置」と開局後の「増設」の両方を含みます。どうしても思い出せない場合は、管轄の(免許状を発給した)総合通信局に問い合わせます。
(a) 平成19(2007)年11月30日以前に設置した送信機
(b) 平成19(2007)年12月1日以後に、TSSまたはJARDの保証を受けて設置した送信機(JARDは平成26(2014)年11月10日に保証業務に再参入)
(c) 平成19(2007)年12月1日以後に、技適機種として総通に直接「設置の届出」をした技適送信機
2 上記(a)「平成19(2007)年11月30日以前に設置した送信機」に該当する送信機
→「旧スプリアス機」です(新スプリアス基準が発効する前の送信機だから。)。ですので、平成34(2022)年11月30日まで使ってその後撤去の届出を行うか、JARDのスプリアス確認保証を受けましょう。スプリアス確認保証を受ければ、平成34(2022)年12月1日以降も使えます。なお、本稿末尾の「補足①」をご参照下さい。
3 上記(b)「平成19(2007)年12月1日以後に、TSSまたはJARDの保証を受けて設置した送信機」が1台でもある局
→TSSまたはJARDの保証を受けている送信機は、本来は、「新スプリアス機として保証」されているはずですが、以下の2つの例外があります。
※1 設置申請の際、「無線局事項書及び工事設計書」の「15 備考」欄に、経過措置を受けるため、「平成19年11月30日までに製造されている無線設備である」と記載している送信機は、「旧スプリアス機として保証」されています。
※2 関東総通によれば、平成19(2007)年12月1日以降「ある時期」(2012年ころ?)までに保証を受けて設置された送信機については、総通のデータベース上、「新スプリアスとしての保証」か「旧スプリアスとしての保証」か、当時の担当者が入力せず、空欄になっていて記録が残っていないものがあるそうです。この場合、個別に判断して、古い送信機であれば「旧スプリアス機」として扱い、2017(平成29)年12月1日以降の免許更新時に、無線局免許状に上記の注記を入れるのだそうです。
以上の例外があるので、総通に問い合わせましょう。その結果、以下のとおり対応することになります。
(b-1) 「旧スプリアス機として保証された送信機」
→平成34(2022)年11月30日まで使ってその後撤去の届出を行うか、JARDのスプリアス確認保証を受けましょう。スプリアス確認保証を受ければ、平成34(2022)年12月1日以降も使えます。
※私が関東総通に電話で問い合わせたところ、2009年5月にカムバックハムとして開局した時に設置した第1送信機から第7送信機まで(いずれも非技適機種)と、2012年11月に増設した第8送信機については(いずれも非技適機種)、総通のデータベース上、「新スプリアスとしての保証」であるとの記録が残っていない(空欄になっている)そうです。ですので、これら8台の送信機については、JARDのスプリアス確認保証を受ける予定です。
(b-2) 「新スプリアス機として保証された送信機」
→特に手続は不要です。そのまま、平成34(2022)年12月1日以降も使えます。
4 上記(c)「平成19(2007)年12月1日以後に、技適機種として総通に直接「設置の届出」をした技適送信機」
→電波利用ホームページの「技術基準適合証明等を受けた機器の検索」サイト(以下「技適検索サイト」)で、その送信機の型番で検索してみて下さい。
http://www.tele.soumu.go.jp/giteki/SearchServlet?pageID=js01
技適の種類により、以下のとおり対応が分かれます。
(c-1) 技適検索サイトで「旧スプリアス機」であるとヒットした技適送信機
→「旧スプリアス機」ですので、平成34(2022)年11月30日まで使ってその後撤去の届出を行うか、JARDのスプリアス確認保証を受けましょう。スプリアス確認保証を受ければ、平成34(2022)年12月1日以降も使えます。
なお、技適機種であるとカタログや取扱説明書には書いてあるのに、技適検索サイトでヒットしない技適送信機もあります(技適検索サイトには、平成11(1999)年2月以前に技適を受けた機器は載っていません。)。これも、「旧スプリアス機」ですので、同様に、撤去の届出を行うか、JARDのスプリアス確認保証を受けましょう。スプリアス確認保証を受ければ、平成34(2022)年12月1日以降も使えます。
※当局の第16送信機(IC-T81)は、技適機種ですが、技適検索サイトでヒットしないので、「旧スプリアス機の技適機種」と判断されます(関東総通にも確認済み。)。ですので、JARDのスプリアス確認保証を受ける予定です。
(c-2) 技適検索サイトで「新スプリアス機」であるとヒットした技適送信機
→「新スプリアス機」ですので、特に手続は不要です。そのまま、平成34(2022)年12月1日以降も使えます。
5 これから設置しようとする送信機
まず、以下のいずれに当たるかを判断します。
(d) 技適検索サイトで、「旧スプリアス機」であるとヒットした送信機、及び、技適機種であるとカタログや取扱説明書には書いてあるのに、技適検索サイトでヒットしない送信機
(e) 技適検索サイトで、「新スプリアス機」であるとヒットした送信機
(f) (d)及び(e)以外
6 上記(d)「技適検索サイトで、「旧スプリアス機」であるとヒットした技適送信機、及び、技適機種であるとカタログや取扱説明書には書いてあるのに、技適検索サイトでヒットしない技適送信機」
→「旧スプリアス機」です。以下の2つのルートがあります。
(d-1)「旧スプリアス技適機種」として、総通に直接「増設の届出」をし、後に「JARDのスプリアス確認保証」を受ける。(d-2)より費用が安く済みますが、二度手間がかかります。なお、平成29(2017年)12月1日以降は、「旧スプリアス技適機種の増設の届出」は、総通で受け付けてもらえなくなる(旧規格で免許が受けられる経過措置期限が到来し、新規格への適合が確認されたものしか免許がされないため。)ので、このルートは平成29(2017年)11月30日までであれば取り得る手段、ということになります。
(d-2)最初から、JARDかTSSの保証を申請する。「新スプリアス機として保証」してもらえる可能性があります。JARDでは、メーカー製のJARL登録機種や技適機種のうち「新スプリアス機」として保証可能な機器リストをホームページで公開しているので、確認をしてみましょう。リストに掲載されていればJARDにて「新スプリアス機」として保証を受けることが可能です。「新スプリアス機として保証」してもらえれば、平成34(2022)年12月1日以降も使えます。
7 上記(e)「技適検索サイトで、「新スプリアス機」であるとヒットした技適送信機」
→「新スプリアス機」ですので、技適機種として総通に直接「設置の届出」をしましょう(保証は不要です。)。平成34(2022)年12月1日以降も使えます。
※なお、技適機種に附属装置を付けたい場合、まずは単体で「増設の届出」をし、後に「変更の届出」をするのが簡便です。
8 上記(f)「(d)及び(e)以外」
→「旧スプリアス機」ですので、上記(d-2)と同様、JARDかTSSの保証を申請しましょう。「新スプリアス機として保証」してもらえる可能性があります。「新スプリアス機として保証」してもらえれば、平成34(2022)年12月1日以降も使えます。
【補足】
1 補足①「JARDのスプリアス確認保証」について
- 「JARDのスプリアス確認保証」は、旧スプリアス機を平成34(2022)年12月1日以降も継続して使用するために、「旧スプリアス機」を「新スプリアス機」として扱ってもらうための手続であると考えるとわかりやすいと思います。
- JARDのスプリアス確認保証の対象機器のリストに掲載されていれば、簡単にスプリアス確認保証が得られるはずです。
- リストに掲載されていない機種については、JARDに個別に問い合わせるのがよいと思います。JARDでは、有料での測定サービスのほか、JARD測定器室を一般ユーザーにも曜日や時間を限定して開放しているので、スペアナ画像が必要であれば、上記サービスの利用を検討してはいかがでしょうか。また、自ら測定したスペアナ画像を添付すれば、スプリアス確認保証が得られることがあるようです。この場合、測定器の1年以内の較正要件は問わないが適正に測定したものであればよい、ということのようです。
2 補足②「保証」について
- 現在行われている「保証」は、「新スプリアス機としての保証」です。これが通れば、「新スプリアス機」として扱われるので、平成34(2022)年12月1日以降も使えます。
- JARDのスプリアス確認保証の対象機器のリストに掲載されていれば、軽微な審査で「新スプリアス機としての保証」が得られるようです。
- リストに掲載されていない機種については、JARDに個別に問い合わせるのがよいと思います。
3 200Wを超える送信機
当局には「200Wを超える送信機」がないのでよくわからないのですが、「JARDのスプリアス確認保証」も「保証」も受けられないはずです。JARLが総務省と対応を協議していると聞いています。JARLからの正式な発表を待ちましょう。「親機が200W以下で、リニアを接続することにより最終出力が200Wを超えている送信機」についても同様です。
4 混乱の原因?
JARD等の説明文では、上記(b-2)のとおり、「新スプリアス機として保証された送信機」というカテゴリーがあることがはっきり説明されていません。他方で、「旧スプリアス機として技適を受けている送信機」というカテゴリーがあるので、技適機種だからといって安心はできません。このあたりが混乱を招いている原因のようにみえます。
5 実際の整備の重要性
本稿で検討したのは、あくまで、無線局免許状の備考欄に、上記の注記がされないための方法論です。「JARDの新スプリアス確認保証」を受けられた送信機でも、実際の使用状況において、新スプリアス基準に反するスプリアスをまき散らさないように整備することは、免許人の義務です。
以上

追記: 米国及び欧州では、旧スプリアス機はそのまま使えるようですね。
https://sites.google.com/site/ja5aea/dian-bo-fa/xinsupuriasu-gui-ding