コールサインが「個人情報」??

JJ1WTL本林さん(JARL社員・関東地方本部選出)が、2020年9月5日に行われた社員総会継続会に関する記事をご自身の超有名ブログ「CIC」に掲載していたところ、JARLから警告書が届き、同時にブログを掲載していたブロバイダにJARLが削除請求を行ったため、プロバイダの手によりその記事が削除されてしまったという事件が発生しました。顛末が以下の記事に書かれています。

2020年10月02日 社員総会報告5-

今回のJARLの「警告書」が、アマチュア無線界に大きな「混乱」を引き起こしていますので、整理しておきます。

コールサインは「個人情報」?

JARLの「警告書」は、「コールサインも会員台帳に登録した個人情報であり、最大限保護されるべき情報」だから、「コールサイン等の個人情報を、各社員の同意なく、ウェブサイト等に掲載し、第三者に公開することは、明らかに個人情報の目的外利用」と主張しています。

明らかに誤った主張です。

アマチュア無線家ならご存じのとおり、コールサイン(識別信号)は、無線局を識別するために総務省から付与されるものです。秘密にされていては識別できませんから、本来的に公開情報です。総務省の「電波利用ホームページ」の「無線局等情報検索」でも検索できます。

情報公開審査会(内閣府(現在は総務省)の審議会)も、平成13年12月19日付け答申書において、「個人に免許しているアマチュア局の呼出符号」は、行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条1項の「個人に関する情報」(個人情報保護法2条1項の「個人情報」の定義とほぼ同じ)には該当しないとの判断を示しています。(この原稿を書いている最中に、複数の方からご指摘いただき、この件を思い出しました。ありがとうございました。)

個人情報保護法の解釈としても、同法により個人情報を守る義務が課されるのは、会員データベースを作ったJARL本体と、そのデータベースの提供を受けた者(例えば、事務局から会員データベースの提供を受けた地方本部・支部の役員)のみです。それ以外のルートでコールサインを知った者は、JARLが負う義務とは関係ありません。

もともと公開されている情報をJARLが会員から集めてデータベース化したからといって、突然、JARLが「秘密」として独占でき、一般人に対し公開を差止請求できる情報に化けるはずがありません。JARLは何様のつもり?と言われても仕方ありません。

「コールサインをブログに書くとJARLに削除させられるのか?」という声が上がっています。ご安心下さい。コールサインを書いただけで、JARLが削除請求権を取得することはありません。

社員の「コールサイン」は公開してはいけない?

JARLの主張を善解するに、JARLが言いたかったのは、ある「コールサイン」を持つ人が「JARLの社員」であることを公開することは許されない、ということだったのかも知れません。

いやいや、JARL自身が、社員のリストを(しかも氏名付きで)公開しているじゃないですか。この主張も成り立ちません(そもそも、WTL氏の記事は、氏名を記載していません。)。

社員の社員総会での行動は公開してはいけない?

結局のところ、JARLの警告書の中で法的に検討に値するのは、以下の部分だけと思われます。

(引用開始)
各社員の出欠、議決権行使書の行使状況及び誰に委任したか、受任者の投票行動等は、まさに信条に係わる情報であり、しかも、各決議は、無記名により行われておりますので、各社員のプライバシーとして、最大限に保護されなければならない情報でございます。

かかる情報について、各社員の同意を得ることなく、ウェブサイトに等に[原文ママ]掲載し、第三者に公開することは、各社員のプライバシーに対する侵害行為といわざるを得ません。
(引用ここまで)

しかしまず、WTL氏のブログに「受任者の投票行動」は書かれていなかったことを指摘せねばなりません。社員が開示請求できるのは「委任状」と「議決権行使書」だけ(法人法第50条第5項、第6項、同第51条第3項、第4項)で、「投票用紙」は開示請求できませんので、社員であっても「受任者の投票行動」は知るよしもありません。また、仮に投票用紙を開示請求出来たとしても、JARLが自分で認めているように、今回の決議は無記名で行われているのですから、やはり、「受任者の投票行動」を知ることはできません(髙尾執行部の方々も知らないはずでは?)。「警告書」にウソは書かないでいただきたいと思います。

WTL氏のブログに実際に書かれていたのは、各社員の①「出欠」と、②欠席した人については「議決権行使書」と「委任状」のいずれを提出したかと、③委任状を提出した人にについては「受任者(代理人)のコールサイン」だけでした(議決権行使書の内容は、WTL氏は知っていたはずですが、書いていませんでした)。

しかし、①と②は、社員がどのような手段で権利行使をしたかという単なる事実に関わるものであり、「信条に関わる情報」とは言えません。

残る③「受任者(代理人)のコールサイン」についても、WTL氏によれば、今回の記事を削除するよう直接求めてきた社員はいなかったとのことです。社員は、所信を掲げて立候補し、多数の会員の負託を受けて当選したのですから、会員に対し責任を負っており、多くの社員が、社員総会でどのような発言をし、どのように議決権を行使したのかをブログ等で明らかにされています(私自身も、もちろん、社員総会での言動を公開する所存です。)。JARLの現状を支持するのかしないのか、どのような立場であれ、社員総会での言動は公開されて当然、かまわないという責任感のある方々が、社員に就任されているものと私は信じています。

JARL組織の秘密主義

逆に、選挙期間中は口当たりのよいことを主張し、当選したのちの言動は秘密というのは、有権者に対する背信行為ではないでしょうか。これは、社員に限らず、理事についても言えることです。

JARLでは、社員総会の速記録やコンテスト委員会によるパプコメ(1.JARLコンテストについての意見募集結果発表)では意見表明者のコールサインが公開されるのに、理事会における理事の発言については発言者の氏名・コールサインは公開されないのです。むちゃくちゃです。

このような組織の不透明さ・秘密主義が、責任ある方々の無責任を生み、今のJARLをおかしくしているのではないでしょうか。

(横道にそれますが、髙尾義則氏率いる「JARL会員ファーストの会」のウェブサイトには、選挙期間中は、候補者個人個人の所信・公約が掲載されていましたが、選挙が終わるや早々と(しかも社員総会で理事として承認される前に)、各個人の所信・公約は削除されてしまいました。ですが、公約は、地方本部長・理事に就任した後に実現することを会員に約束したことがらなのではないのでしょうか。)

削除請求の真の目的

こうして分析していくと、今回のJARLの削除請求は、③「受任者(代理人)のコールサイン」のリストが開示されて困る人が、「社員の個人情報」「社員のプライバシー」なるものに名を借りて、都合の悪い情報の削除請求を行ったものとの疑いを禁じ得ません。ここで、今回の社員総会と継続会における議決権行使書・委任状の状況から、「大きな意思」による動員がかかったことが推測されることについて、2020年9月27日に行われた「JARL正常化タウンミーティング(第2回)」で報告致しましたので、ご覧いただければと存じます。

また、上記のとおり、JARLの主張は多くの事実誤認を含んでいますが、事実誤認に気づくはずもないサイトサーバーのブロバイダにも削除請求を行い、WTL氏の記事を削除させたことは、社員に対する不当な言論弾圧とすら言えます。他方で、髙尾氏に支援された社員候補者が、支部活動で得たと推認される会員の個人情報を選挙活動に利用した件は、極めていいかげんな理屈で不問とされたのです。何というダブルスタンダードでしょうか。

髙尾執行部は、最悪手を選択したと言わざるを得ません。

JARLの顧問弁護士

最後に、今回の「警告状」は、第52回理事会で「顧問」に選任された「弁護士法人法律事務所オーセンス」所属の弁護士2名がJARLの代理人として送付したものです。この2名の弁護士は「社員総会の継続会に関する仮処分」からJARLの代理人に就任しており、アマチュア無線家ではないと伺っていますので、現時点で、アマチュア無線界のあれこれをご存じないのは無理もないことかも知れません。ですが、弁護士は、作成した書面は外に出す前に依頼者のチェックを必ず受けるものです。髙尾執行部と事務局が今回の警告状の案文をきちんとチェックしていれば、「コールサインは個人情報である」というような明らかな誤りの主張は防げたものと思われます。

(上記理事会の議事は、「顧問弁護士」とJARL定款第29条にいう「顧問」を混同している嫌いがありますが、それはともかく、)組織の顧問弁護士は、会長や執行部に属する個人の利益を守るために雇われた者ではなく、顧問先組織であるJARL=会員の総体のために、会員から集めた会費をもって雇われた存在です。このことは、弁護士倫理の基本です。法律事務所オーセンス所属の先生方におかれまして、今後のご活躍にご期待申し上げる次第です。

(2020-10-09 記)

3件のコメント

  1. おはようございます~(^^)
    解説ありがとうございました~

  2. 誤った主張に基づく記事削除に対する対抗措置は取られないのでしょうか?
    と言っても、元林さん個人のBlogに対する処置ですので、正常化する会として対応するのもちょっと違う気がします。
    少なくとも、ここで書かれた内容(コールサインは個人情報ではない、JARLの顧問弁護士は会長や特定理事の利益を守るためではない)をお知らせする、あるいは話し合いを持つ必要が有るのではないでしょうか?

    • 髙尾執行部も事務局も新しい顧問弁護士も、私のブログは読んでいると思います(読んでいただいてかまわないように、綿密に推敲して書いているつもりです。)。参考にしていただいて、改めるべきところは改めていただければありがたいです。

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