Echolinkアプリを使った海外局とのQSOと電波法(暫定的整理)

【注】この記事は一般論かつ私的見解を示すものであって、実際の事例において、関係当局が関係法令に基づきこの記事のとおり扱うことを保証するものではありません。無線局の運用は自己責任でお願いいたします。

標記の件、Twitterで話題になっていました。以下のツイートに続く一連のツイートをご覧ください。

この問題、私も以前から気になっていたので、整理してみます。

1 想定する事例

下記の図の「電話機」を「Echolinkアプリがインストールされたスマホ」に置き換え、その使用者を「通話者C」とします。A局及びB局は日本国内に所在するアマチュア局であるとします。

X国にでかけた「通話者C」が、「Echolinkアプリがインストールされたスマホ」からEcholink網経由でJAにある「A局」とQSOすることは、電波法令に抵触するでしょうか。電波法令に抵触せず許されるとして、「通話者C」は、どのようなコールサインを用いるべきでしょうか。

2019-10-20.png

この図は、電波法関係審査基準「28 公衆網接続」の注4の【形態1’】を引用したものです。電波法関係審査基準の原文は、JJ1WTL本林さんのホームページに掲載されています(感謝)。

2 通話者Cと無線局免許

通話者Cは、X国でアマチュア局として電波を出しません。よって、X国のアマチュア局の免許が不要なことは明らかです。(スマホも立派な無線機・・・JA仕様のスマホをX国で使用することがX国の電波法の下許されるかどうかはここでは省略。)

3 B局と無線局免許

B局は日本国内で電波を出すので、当然、日本のアマチュア局免許が必要です。

4 電波法関係審査基準の解釈

アマチュア局の公衆網接続については、「電波法関係審査基準」の「28 公衆網接続」(以下「審査基準第28」といいます。)に記載があり、関係者すべてがその要件を満たす必要があると考えられます。

「電波法関係審査基準」は法令ではなく総務省の内規です。また、公衆網接続について許可はもちろん届出すら不要なのに、なぜ公衆網接続について「電波法関係審査基準」に記載があるのか、位置づけがよくわかりません。そこで、「電波法関係審査基準」の「28 公衆網接続」の規範性は法令に比べて弱いとみて、以下、大胆に解釈してみます。

(1) 電波法39条13条との関係

審査基準第28の注3アに、

ア  アマチュア無線局の無線設備の操作は、無線従事者でなければ行ってはならない(法第39条の13)ことから、通話は通信操作に該当するため、通話者には資格が必要となる。

と書かれています。では、通話者Cが必要な「資格」は日本の無線従事者資格に限られるでしょうか。

文言上、「我が国の資格」とは限定されていません。

また、そもそも、A局の「通信の相手方」はB局、B局の「通信の相手方」はA局と整理されており、通話者CがB局を遠隔操作しているとは考えられていないはずです(「通話は通信操作に該当する」との文言は疑問。)。この整理を貫くと、通話者Cは電波を利用した通信を行っておらず、したがって資格は不要という整理になってもよいように思われます。しかし、結論として、「通話者には資格が必要となる。」という結論が導かれている・・・理由はよくわかりません。結論ありきなのかも知れません。

なお、審査基準注4「接続の形態と電波法令に適合するかどうかの判断(例) 」の【形態1】として、インターネットを通じて「データベース等」にアクセスする例が示されていますが、そこでは、「⑤  データベースへのアクセスのほか、電子掲示板への書き込み等一度電子的に蓄積して送信するものについては、無線従事者の資格は不要である。」とされています。「電子掲示板」のデータが音声化されてB局から電波に乗って送信されるのですから、「電子掲示板」の管理者も無線従事者の資格が必要とされそうなところですが、資格不要とされています。

そのココロは、「一度電子的に蓄積して送信するもの」の場合、その管理者の意思によらず自動的にデータが送出されるのだから、「電子掲示板」の管理者がB局を操作していると見る余地は一切なく、したがって資格も不要、と考えられたのでしょうか・・・よくわかりません。

いっそ、データの場合も音声の場合も、一律に無線従事者資格は不要と踏み込む余地もあったのかも知れません。

このように、「通話者には資格が必要となる。」という制約が導かれている理由がよくわからないことから、制約はできるだけ小さくなるように、ここでは、「通話者Cが必要な「資格」は、日本やX国の従事者免許に限らず、どの国のアマチュア無線従事者資格でもよい」との説を唱えておきます。その方が現実に合っていますし。

(2) 根本基準第6条の2第3号、運用規則第259条との関係

審査基準第28の注3イに、

イ  根本基準第6条の2第3号
「免許人以外の者の使用に供するものでないこと」については、免許人以外の者の通信の用に供することを目的として行はれることを禁止する趣旨であり、免許人に関係する通信の場合、それが認められるかどうかは無線局の目的及び通信事項に合致するかどうかで判断されるものである

と記載されています。「無線局(基幹放送局を除く。)の開設の根本的基準」の第6条の2第3号は以下のとおり。

(アマチユア局)
第六条の二 アマチユア局は、次の各号の条件を満たすものでなければならない。
(中略)
三 その局は、免許人以外の者の使用に供するものでないこと。
(後略)

では、B局は、通話者Cの「使用に供されている」のでしょうか。「通話者Cは、B局を遠隔操作しているわけではなく、B局は、あくまでB局の免許人の責任でを運用されている。よって、免許人以外の通話者Cの使用に供しているわけではない」との整理で、同条とのコンフリクトを回避できそうです。

しかし、審査基準第28は、さらに注3ウで、運用規則第259条に言及しています。以下のとおり。

ウ  運用規則第259条
この規定は、特にアマチュア局に限り設けられているものである。当該規定は、通信の相手方が不特定多数のアマチュア局である等の特徴から、他の自営の無線局と比較して違法運用の可能性が高いと考えられるため、これを排除するための為念規定である。
したがって、当該規定の解釈は、根本基準の規定である「免許人以外の者の使用に供するものでないこと」の解釈を準用し、免許人以外の者の通信の用に供することを目的として行われることを禁止する趣旨であり、免許人に関係する通信の場合、それが認められるがどうかはアマチュア局の目的及び通信事項に合致するかどうかで判断されるものであり、この点においてアマチュア局以外の無線局の場合と同様である。

無線局運用規則第259条の原文はこちら。

(禁止する通報)
第二百五十九条 アマチユア局の送信する通報は、他人の依頼によるものであつてはならない。

通話者Cがスマホアプリで通話操作を行った瞬間にB局から電波が出ることに注目すると、B局は通話者Cの「依頼」によって通報を送信しているようにも見え、Echolink等のVoIP無線が無線局運用規則第259条を乗り越えるのは難しいようにも思われます。

しかし、審査基準第28は、「免許人に関係する通信の場合、それが認められるかどうかはアマチュア局の目的及び通信事項に合致するかどうかで判断される」との解釈を提示しています。もってまわった言い方ですが、裏から読むと、「免許人が『関係』している限り(=きちんと管理している限り)、アマチュア局の目的と通信事項、すなわち、「個人的な興味によって行われる無線通信」(電波法5条2項2号参照)を逸脱していなければ自由にやりなさい」というように読めそうです。

そして、審査基準第28の注4は、具体的な事例が許される要件として、

B局の免許人は、A局の免許人が通話者と通信することについて、アマチュア局の免許人として個人的な興味を持っていること。

と明記しています。つまり、「B局の免許人がA局の免許人が通話者と通信することについて、アマチュア局の免許人として個人的な興味を持っている」→「他人(通話者C)の依頼による通信ではなくB局の免許人が自分でやっている」→「アマチュア局の目的と通信事項(=個人的な興味)を逸脱していない」→「自由にやりなさい」と解釈することによって、無線局運用規則第259条を乗り越えてしまっているのです。

これができるのなら、「個人的な興味」のもとに何でもできるとされかねません。なかなか大胆な解釈です。ありがたいことですが、我々民側としては、乱用しないよう気をつけた方が良さそうです。

(3) 無線通信規則第25.3号との関係

審査基準第28は、国際電気通信連合(ITU)のRadio Regulations(RR)第25.3号にも触れています。

25.3  2) Amateur stations may be used for transmitting international communications on behalf of third parties only in case of emergencies or disaster relief. An administration may determine the applicability of this provision to amateur stations under its jurisdiction.

(仮訳)
第25.3号 2) 第三者のための国際間の通報を送信することを目的としてアマチュア局を用いることができるのは、非常事態または災害救助の場合に限る。加盟国の当局は、当該国内において本条がアマチュア局に適用されるか否かを決定することができる。

なお、この条文は、2003年のWRCで改正されています。改正前の条文はこちら。

2) It is absolutely forbidden for amateur stations to be used for transmitting international communications on behalf of third parties.

(仮訳)
第25.3号 2) 第三者のための国際間の通報を送信することを目的としてアマチュア局を用いることは一切禁止される

要するに、アマチュア無線を使った第三者のための国際間の通信は一切禁止されていたところ、2003年に、「アマチュア無線を使った第三者通信も、非常事態・災害救助の場合は許す、しかも加盟国の判断でさらに範囲を広げられる」というように規制緩和されたというわけです。

で、日本国総務省はどう理解しているかというと、審査基準第28は、以下のとおり述べています。

注2  無線通信規則
法第3条の規定により、無線通信規則第25.3 号及び第25.4 号の規定を適用し、免許人が自ら行う免許人のための通信を除き、国際通信の伝送はできない。

注3 その他の注意事項等
(中略)
エ  国際通信の伝送
根本基準第6条の2第3号及び運用規則第259条の解釈から、公衆網と接続した適法なアマチュア業務の通報は、他の無線局種の場合と同様に免許人以外の者の使用に供するものではない(他人の依頼によるものではない)もののみ許されると整理される。
一方、無線通信規則第25.3 号に規定される「第三者通信」の概念には、我が国において他人のための通信と整理されるもののほか免許人のための通信と整理されるものも含まれると考えられる。
したがって国際的な規制との整合性を図る観点から、免許人が自ら行う免許人のための通信を除き、国際通信の伝送はできないこととする。

これを文字どおり読むと、「B局の免許人が国外に出て、インターネット網を通じて自分が設置したB局の設備を通じてA局とQSOすることは許されるが、通話者Cが国外からB局の設備を通じてA局とQSOすることはできない。」となりそうです。

えええぇ・・?これはヤバい。ちょっと頑張ってみましょう。

審査基準第28が示す上記結論の理由、「一方、無線通信規則第25.3 号に規定される「第三者通信」の概念には、我が国において他人のための通信と整理されるもののほか免許人のための通信と整理されるものも含まれると考えられる。」は、通話者CのQSOを禁止する理由として十分でしょうか。

私には、上記の一文を何度読んでも、正直言って意味がよくわかりません。日本法の解釈としては、公衆網接続は、B局の免許人の「個人的な興味」に基づく以上「免許人のための通信」であり適法だが、RR第25.3号との関係でも同じ理由で適法と考えられるかは総務省としてもわからない、よって、危ないので、国際通信は我慢しておけ、という意味でしょうか・・・?

そもそも、RR第25.3号自体が、加盟国の当局の裁量を認めており、日本国総務省としても遠慮する必要はなかったのではないでしょうか。実際に、アマチュア無線界では、世界的に、国際間のインターネット網を経由したQSOが行われて、多くの国で認められています。このような現状に鑑みて、私見としては、「日本法の解釈として認められた上記の解釈はRR第25.3号のもとでも認められ、B局免許人の「個人的な興味」に基づく国外所在通話者Cの通話の伝送は、『第三者のための国際間の通報( international communications on behalf of third parties)』に該当せず、したがってRR第25.3号では禁止されない(という立場を総務省も取ることができたのに・・)。」との説を唱えておきます。

パンドラの箱を開けてしまったかも知れません。賢明な読者におかれては、総務省に問い合わせたりせず、そっとしておきましょう・・。

5 通話者Cが用いるべきコールサイン

最後に、(Twitter上で大議論となった)通話者Cが用いるべきコールサインについて検討します。

通話者Cの音声はB局から電波に乗って送信されますが、あくまでB局の送信であって通話者Cの送信ではないと整理されます。ですので、B局の免許人は、定期的にB局のコールサインを送出する必要があります(そのために、音声またはCWによる自動アナウンス機能が備わっているのでしょう。)。また、B局のコールサイン送出はB局の責任なので、通話者CがB局のコールサインの送出について気にする必要はないように思われます。

また、通話者CがB局を遠隔操作している訳ではなく(通話者の音声がB局により電波に乗せられているだけ)、その他電波法に基づく制約も考えられないので、通話者Cのコールサインとしては、どこかの国で有効なコールサインであれば基本的に何を用いてもよいように思われます。ただ、混乱を避けるために、以下のように整理してはいかがでしょうか。

(a) 通話者Cがいる国で有効なコールサインを保有していればそれを優先して用いる。他の国で有効なコールサインを持っていてもその使用は避ける。
(b) 通話者Cがいる国で有効なコールサインを保有していないときは、できるだけ、通話者Cがもっとも多く用いているコールサインを用いる。
(c) どこの国でも有効でないコールサインは用いてはならない。

実例として、

日本でスマホアプリから「CQ こちらは7K1BIB 杉並区からです」
→○ もちろん。

日本でスマホアプリから「CQ こちらはAC1AM 杉並区からです」
→△ 違法とは言わないが米国から出ているようで紛らわしい。できるだけ避けるべきでは?

台湾でスマホアプリから「CQ こちらは7K1BIB 台北からです」
→○ と解したい。

台湾でスマホアプリから「CQ こちらはAC1AM 台北からです」
→△ 違法とは言わないが紛らわしい。あえてそれを使わなくても・・・。

台湾でスマホアプリから「CQ こちらはBW/7K1BIB 台北からです」
→× 「BW/7K1BIB」の運用許可を台湾当局からもらっていない限り、存在しないコールサインでありダメ。

米国でスマホアプリから「CQ こちらはAC1AM Bostonからです」
→○ もちろん。

米国でスマホアプリから「CQ こちらはW1/7K1BIB Bostonからです」
→× FCC免許をもらうと相互運用協定に基づく運用は不可。よって存在しないコールサインでありダメ。

フランスでスマホアプリから「CQ こちらはF/7K1BIB パリからです」
→○ 日仏間の相互運用協定に基づき有効なコールサイン(手続き不要)。

フランスでスマホアプリから「CQ こちらは7K1BIB パリからです」
→△ 違法とは言わないが、手続きなしにF/7K1BIBを使えるのにあえてそう言わなくても・・・。

ドイツでスマホアプリから「CQ こちらはDL/7K1BIB ミュンヘンからです」
→○ 相互運用協定に基づき独当局からコールサインをもらっていればOK。

ドイツでスマホアプリから「CQ こちらは7K1BIB ミュンヘンからです」
→○ 「DL/7K1BIB」を取得する手続きをとっていなければこうするしかない。

ドイツでスマホアプリから「CQ こちらはDL/AC1AM ミュンヘンからです」
→○ 「CEPT T/R 61-01 のもと、日本人でもUS免許に基づきドイツで無手続きで運用可」と考えればOK。参考記事「日本人でも一部利用できるCEPT勧告」。

なお、通話の中でどのようなコールサインを用いるかという話と、どのようなコールサインをEcholinkサーバに登録するかは別の問題です。原則として、上記のルールで決まるコールサインをEcholinkサーバに登録して用いるべきですが、Echolinkでは、同一ユーザーが複数のコールサインを保有する場合は最初に登録したコールサインを使い続け、他のコールサインは登録に用いることはできないというルールがある(”The following callsigns will not be accepted for validation: – Additional callsigns held by the same user. If you hold multiple callsigns, please use only one of them with EchoLink.” http://www.echolink.org/authentication.htm )ので、これに従うべきです。また、「W1/」といったポータブル表記を含むコールサインはEcholinkサーバにに登録できないので、その部分を除いたコールサインを登録するしかない(それで許される)ように思われます。

(上記下線部は2019-10-20 22:20追記)

6 補足

(1) 他のVoIP無線

以上の記事はEcholinkを念頭に置きましたが、D-Star網、WIRES-X、DMR網など、他のインターネット経由の無線システム(VoIP無線)でも同じように考えてよいと考えます。

(2) JARLのガイドライン

公衆網接続については、JARLが、「アマチュア無線と公衆網との接続のための指針」を公表しており、その「インターネットに接続する場合」の「接続例3」は、以下の形態が許される要件を4つ示しています。

fig6.jpg

一見、「インターネットアマチュア無線中継網」に接続するものでも、4つの要件を満たせば、その先が国外につながっていてもOKなように見えます。ですが、審査基準第28に記載された例ではなく、「国外につながっていてもOK」と明示しているわけでもありません。RRとの関係を検討しておらず、議論がちょっと荒すぎるように思われます。

(3) アマチュア無線に関する法規制のあり方

今回の調査の過程で、「VoIP無線ノード運用の法的な位置づけ等について」と題する文書に接しました。以下のように書かれています。

 アマチュア無線局に関する法規制は秩序を維持する最低限のもので良い、その中で自由にやってくれ!これが法の趣旨だと思われます。今回のVoIP無線の位置づけにしろ、総務省は現行法を柔軟に運用し、JARLもリーダシップをとってくれているという印象をうけ、とても頼もしく感じています。
行政へのアプローチは、「これはダメじゃないのか?取り締まれ」「白黒はっきりさせる」というよりも「これは微妙だが、うまくいくようにするのはどうしたら良いのだろうか」というアプローチが必要だと思われますが、残念ながらOMと呼ばれる人たちの中には、自分達の趣味趣向に合わないというだけで、ダメダメ論を全面に出してくる方も少なくありません。今回の件は、解釈によってはOKにもNGにもなるものをしっかりと「OK」まで持っていた事例であり、JARLやその他関係者の努力が素晴らしい成果をあげたと評価すべきでしょう。

この文書は平成17年11月のものです。この頃はまだ、規制当局とアマチュア無線界のこういった「阿吽の呼吸」が通じていたのでしょう。

先人に感謝せざるを得ません。

(2019-10-20 記)

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