JARL選挙は何を選ぶのか(2024年版)

「JARL選挙は重要と言われるけど、いったい何を選ぶのかよくわからない」という声をよく聞きます。私なりの解説を書いてみました。

JARL公式メルマガ

今回の選挙から、JARLメールマガジン臨時号(選挙特集号)が配信されていますね。とてもよいことだと思います。渡島檜山支部がまとめてくださっているのでリンクを張っておきます。

「令和6年通常選挙の今後のスケジュールと選挙の種類について」
https://ohs.jarl.pro/2024/03/1234/post-1234

そもそも「一般社団法人」って何?

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」(法人法)に基づいて設立される法人です。いくつか特徴を述べてみます。

  • 「法人」なので、個人とは区別された団体です。法人名義で財産を取得したり保有したりできます。
  • 「社団」法人、つまり人の集まりです。財産に法人格を与える「財団」法人と区別されます。
  • 法定の要件をみたせば誰でも設立できます。2006年以前と異なり、官庁の設立許可は不要です。監督官庁はありません。JARLは、総務省や内閣府に監督される存在ではありません。自律したきちんとした事業運営が求められます。
  • 一般社団法人は収益事業を行ってもよいのですが、営利法人である「株式会社」と異なり、営利を目的とはしません。もっとも、営利を目的としないからといって、赤字を長年垂れ流し、ついに留保金の底が見えてくる状況を放置することが許されるわけではありません。団体としての継続性(最近の言葉で言えば、「サステナビリティ」)が求められるのは当然です。
  • JARLは赤字です(利益を上げていない)ので、今のところ法人税はかかりません(法人住民税は支払っています。)。黒字になると法人税がかかってきます。税金を支払い社会的責任を果たすことも大事ですが、原資は会員からお預かりした会費ですので、バランスを考える必要もあると思います。

JARLの「機関」

JARL Webの「JARLの組織」ページには、「JARLの組織には、社員総会、理事会、監事、地方本部、支部、委員会、および事務局があ(る)」と書かれています。そのうち、法律で決まっている組織(機関)は、「社員総会」「理事会」「監事」だけです。

社員と社員総会

「社員」とは、一般用語の「従業員」という意味ではなくて、法律用語、つまり一般社団法人を構成する「人」のことです。JARLでは、会員から選挙で選ばれた者が、法律上の一般社団法人の「社員」として扱われることになっています。社員には、年1回の社員総会への交通費は出ますが、給料は出ません(無報酬です)。

「社員総会」は、「社員」が参加してJARLの基本的な事項を決める会議です。

JARLの社員は、現状では、年1回の「社員総会」で執行部に質問し、議案に対する賛否を投票することくらいしか活躍の場がありません(狭義の社員)。議案も、法律または定款に書かれたものに限られます。「ハムフェアを年2回にしよう」といった議案を決議することは、残念ながらできません。

社員の皆さんの中には、意欲と能力に満ちあふれている方が多く、社員総会だけではもったいないと思います。社員の役割を拡大して、メーリングリストや「社員懇談会」で、一般会員の意見を代弁していただいたり、本部委員会やWGで実際に「働く社員」「働ける人を連れてこられる社員」になっていただいたりすることも考えられると思います。そもそも「社員」という名称がわかりにくいですね。社員総会以外でも活躍の場があるのなら、例えば「代議員」と名称を変えても良いと思います。

という次第で、社員選挙では、会員の意見を「社員総会」その他の場で真剣に代弁してくれる方、口先で意見を言うだけ、人に言われて行動するのではない方、多くの仲間に支えられ、自分も動いてくれそうな方に投票して頂ければ、JARLはもっと盛り上がると思います。どこかでコールサインを聞いたことがあるとか、アマチュア無線にアクティブだからという基準で投票すべきではありません。JARL選挙は人気投票ではないのです。

理事・監事と理事会

理事会は、社団法人の進む方向性を多数決で決める極めて重要な機関です。理事会は理事と監事で構成されます。理事と監事は、社員総会の決議で選任されます(法人法第63条)。

専務理事には報酬が支払われますが、現在は空席です。その他の理事・監事は、交通費は支給されるものの、無報酬とされています。なお、今年の社員総会で定款変更が承認されれば、特定の分野を担当する「常務理事」が新設されます。

理事・監事は名誉職ではない

理事のうち、JARLの業務執行権限を持つのは、会長(と専務理事)だけです(JARL定款第23条第2項、第4項)。とはいえ、役職のない理事も、会長の業務執行を監督するという、重大な任務を負っています(法人法第90条第2項第2号)。もし、「理事は会長のやることを絶対に支えないといけない」と考えている方がいらっしゃれば、その考えは改めて頂いた方がよいと思います。忠臣は、時には主君の誤りを諫めることも必要だと思うのです。

監事は、理事の職務の執行を監査します。監事には、理事等に対して事業報告を求めたり、業務及び財産状況の調査をしたりする強大な権限が与えられています(法人法第99条)。理事の行為の差し止めすらできます(法人法第103条)。なお、会長→地方本部長→支部長というヒエラルキーに組み込まれた経験がある方は、監事として会長に物申すことは難しいでしょう。監事は、法律や会計の専門家になっていただくのがよいと思います。

JARLに対し損害を負わせた理事・監事は、JARLに対し損害賠償責任を負います(法人法111条)。監督責任を怠った理事も、JARLに対し損害賠償責任を負うことがあります。なお、役員保険に入っているから安心と思っている役員がいるかもしれませんが、故意・過失のある役員(不正を知りながら放置し、監督責任を果たさない理事・監事)には、保険会社も保険金を出さないでしょう。

JARLにおける「理事候補者」の選び方

法律では、理事・監事は「社員総会の決議」で選任されるところまでは決まっているのですが、その「候補者」の選び方は社団法人によってさまざまです。例えば、「役員推薦委員会」といった独立の機関を設けて候補者を選ぶ団体もある(例:Vリーグ機構)一方で、理事・監事の候補者全員を会員の選挙により選ぶ団体もあります(例:情報処理学会)。

JARLの場合、理事・監事の候補者は、選挙と推薦のハイブリッド方式で選ばれます。

まず「理事候補者」ですが、2年に1度、4月に投票が行われるJARL選挙で、①全国理事候補者5名と②地方本部長10名が決まります。②地方本部長は理事候補者になることができます(自分は地方本部長に専念するとして、理事は辞退してもよいと思いますが。)。

その後、5月の理事会で、③理事会が推薦する理事候補者2名が追加され、合計最大17名の「理事候補者」が決まり、6月の社員総会に上程されます(JARL定款第21条第1項、JARL規則第26条第1項)。

なお、前回の選挙までは、②は「各地方本部から選ばれる理事候補」であり、社員総会で理事として承認されて初めて、各エリアの地方本部長を兼ねることができる、というややこしい仕組みになっていました。ですが、各地方本部の選挙で選ばれた方が、他のエリアの社員の反対で地方本部長になれないのはおかしいという理由で、定款変更がなされ、今回からは、各地方本部の選挙で選ばれた方は自動的に地方本部長に就任し、理事になれるかどうかは社員総会で審議される方式に変わりました(私が社員提案書を起案しました。社員の皆様、ご承認ありがとうございました。)。

JARLにおける「監事候補者」の選び方

「監事候補者」は、(過去の例では)2020年5月の理事会で、最大2名の監事候補者が決まり、6月の社員総会に上程されます(JARL定款第21条第2項、JARL規則第26条第2項)。旧法人の時代は監事も選挙で選ばれていましたが、新法人への組織変更の際に、理事会の推薦になりました。

社員総会での承認

繰り返しますが、「理事候補者」も「監事候補者」も、6月に開催される社員総会で承認されないと、理事・監事になることはできません(JARL定款第21条第2項、JARL規則第26条)。

社員は、選挙で示された会員の意思に拘束されるべきだ、というご意見を聞くことがありますが、法人法上、そのような仕組みは取れませんし、事態はそう単純ではないと思います。不適切な人が理事になると、その悪影響は全国の会員に及びますので、例えば地方本部長選挙の当選者が、他のエリアの社員も含めた反対で理事にはなれないことも当然あり得ると考えます。この人は理事にふさわしいのか、社員総会での承認・不承認がますます重要になります。

6月の社員総会で理事・監事の承認・不承認を決める社員は、今年のJARL選挙で選ばれる社員ではなく、2年前のJARL選挙で選ばれた社員です。2年前の選挙で示された会員の意思によって今後2年の役員の顔ぶれが決められるのは、奇妙ではありますが、現行制度はそうなってしまっています。

6月の社員総会の直後に、社員総会で正式に承認された理事・監事によって理事会が開催されます。この理事会で、会長、副会長等の役職者が互選されます(JARL定款第22条)。この互選は、多数決で決まります。

今年の選挙で選ばれた社員の活動開始時期

今年の選挙で選ばれた社員の任期は、今年6月の社員総会の終了後に始まります。ですので、来年と再来年の社員総会には、今年の選挙で選ばれた社員が出席します。

もし、来年の社員総会前に臨時社員総会が開催されれば、その臨時社員総会には、今年の選挙で選ばれた社員が出席することになります。

(2024-03-22 記)

追伸:私、7K1BIB/山内貴博は、2024年JARL選挙において、全国理事に立候補しています。このような法律家としての知識・経験を生かした情報発信を、これまでは個人ブログやTwitter(現X)などで行ってきましたが、今後はJARL公式の情報発信に貢献したいと思っています。ご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

JARL選挙立候補に当たっての所信(2024年全国理事)
https://7k1bib.net/2024/02/09/shoshin-2024/

JARL選挙所信(続)
https://7k1bib.net/2024/03/06/shoshin-2024-2/

【ご報告】オンライン活動報告・意見交換会
https://7k1bib.net/2024/03/16/online-meeting-3-17/


1件のコメント

  1. 法律家からのわかりやすい解説をありがとうございます。「社員」という言葉にはいまだに違和感があります。「代議員」の方が望ましいです。

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